シルバーナイト プロジェクト その2

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テスト:

さて、ギンガミ一号を実際にテストすることとなりました。これは米国と日本とで同時に行いました。まずアル・マーさんが狩猟にテストナイフを使用しました。マーさんの友人にフィッシャーというカスタムナイフメーカーがいました。一日に一本作るという仕事の早いカスタムナイフメーカーで、大男です。このフィッシャーは魚をデザインしたロゴを刃に打刻した実用カスタムナイフを作り、当方でもいくつか輸入もしていました。中にはセイウチのペニスの骨を使用したものもあり、それは珍しいものでした。マーさんはフィッシャーと狩猟をし、その際の解体やキャンプにギンガミ一号のナイフを使用するというものでした。

結果はあまり良いものではありませんでした。フッシャー製のナイフに比べて刃が甘いというのです。しかしこの話を聞いた尾上氏はビクともしませんでした。それではというので少し高度を上げたものを再度送りました。今度は、まあまあというふうで、特別すばらしいという評価は得られませんでした。まあ、使えるという程度でした。

閑話休題:
大男フィッシャーは変わった狩猟を楽しんでいました。犬で猪を追わせ、追い詰めてナイフで刺殺するのです。このとき銃は使いません。日本の猪の凄さを知っている我々は凄い猟だと思う一方で、本当の猪ではなく、野豚だろうと想像していました。ナイフで刺殺したハンターにはフィッシャーがメダルをくれるのです。


左端がマーさん、その隣がフィッシャー氏後ろに見えるのが例のイノシシ

マーさんも一つ持っているといっていました。当事、和田も誘われたそうですが、日程が合わず帰国しました。しかし後にその猟の様子を撮った写真を見せられたとき、青ざめました。その猪はシベリア猪のような80〜100Kgもありそうな巨大なヤツだったのです。

テスト、その2:
日本におけるテスト、まず3本のナイフを作り、一年中狩猟を行っている広島のハンター、関東で牛豚の解体卸をしているナイフのお客、そしてもう一本は根室で剥製師をしている方に送りました。(※C)ナイフテストの条件は以下のようなものです。

一切砥がずにどれだけ切れたか、切れ味はどうかを出来るだけ詳しくコメントしてほしい。やがてリポートが到着しました。猪を解体した写真もありました。いずれもギンガミ一号の優れた性質をうらずけるものでいたが、中でも精肉業者からのリポートは心強いものでした。彼は具体的に豚何頭、牛何頭と数字を挙げて、砥がずに処理できた量を示してくれました。一方、業者が通常使用しているナイフとの比較を肉処理の仕事量で示し、ギンガミ一号は約二倍の刃持ちの良さがあるとしたのは説得力がありました。また、ギンガミ一号の刃持ちはM2(ハイス鋼)に近いともコメントしていました。



ギンガミ一号の刃持ちの良さには後日談があります。4〜5年後、ギンガミ一号の素晴らしさに目をつけて、これをゴルフ場の芝の根切り用機械の刃に使ってはどうかとテストしたそうです。今まで使っていた刃は8ラウウドできれなくなりましたが、ギンガミ一号なら16ラウンド使えたそうです。そのときはもう驚きませんでした。むしろ、もしハイス鋼なら32ラウンドいけるのではないかと話していました。

その後、改良されたナイフを米国でテストしたメンバーからも、その優れた切れ味を伝える内容が届きました。この頃、この鋼に関してますます自信がわいてきたのを覚えています。

熱処理:
鋼材はギンガミ一号と決まりました。ガーバーからもOKが来ました。この時点ですでに約6ヶ月経っていました。熱処理が次の課題です。

まず鋼メーカーから詳しい指図が来ました。仕上がりはガーバー社の社内基準、HRC-57/59としました。ギンガミ一号はこの硬度で十分な靭性(ネバリ)を持っているはずです。(※D)日立金属はギンガミ一号の場合には、塊の外側の不純物含有の多そうな所は除去し、成分の安定している塊の中心部分のみを出荷すると聞いていました。そのため、鋼板自体のバラつきはさほど心配しませんでした。後は熱処理のバラつきです。刃の厚み、形状によって微妙に熱処理温度を標準数値から変えないと理想の結果は得られません。これはナイフ工場では無理な問題ですので、全面的に日立の研究所の指図を信頼しました。

まず600本近くを焼き入れ、焼き戻しをして全数検査に送りました。鋼の組織を示す顕微鏡写真と共に、検査結果と改良点が指摘されてきました。その頃はいまだ真空処理工場は極めて少なく、安定した熱処理結果を得るのは難しい状況でした。(※E)全品検査はしばらく続きました。これは後に抜き取り検査へと進歩して行きます。その間の600本以上のものはスクラップになったと記憶しています。(※F)


当事のバラエティーの一部

刃の研磨:
刃の研磨のことをメーカーは「スキ」、「スク」といっています。刃を背から切刃へと薄くしていくことです。これは熱処理と同じく専門工場へ外注します。(現在はジーサカイの工場で行われています) ここで問題が起きていました。下請工場がからクレームが来たのです。同じ本数の刃をすくのに普通の鋼の刃の倍の研磨ベルトを消耗すると言ってきたのです。他と同じ賃金では出来ないというのです。生産コストが上がることになります。それで無くとも熱処理には惜しみなく費用をかけています。しかしベルトの消耗が倍になるのでは、何とも仕方ありませんでした。

それでは切れ味はどうでしょうか。これはカッティングエッジ(切刃)の付け方に左右されます。ガーバーナイフは10度〜15度の鋭い刃です。しかし肉でも紙でもサラサラと切れる。あのガーバー独自の切れ味はどこから来るのでしょうか。私はガーバー本社工場での刃付けを見て知っています。ココは2名くらいの超ベテランが受け持っています。何百人の工場でも一名か二名で刃をつけています。彼らは得意そうでした。ひと撫でで刃付けは終わります。我々はガーバーナイフの刃を超拡大鏡で調べて見ました。刃の線と直角に近い角度で細かい線が並んでいます。これは刃付け砥石の目です。割合粗い目です。このギザは切刃の先端に突き出ています。極々細かいノコギリ刃が立っている様なものです。鋭い食い込み、サラサラとした切れ味はこの超極細ノコギリ刃によるものだったのです。

  
左:刃立て作業の様子、 右:ミラー仕上げの作業

そこで我々はそのギザギザと同じ大きさのギザを作るための砥石を探しました。ギザが同じで、刃の角度が同じなら、同じ切れ味が得られるはずだと考えたのです。後はギンガミ一号の硬さ、粘り強さが刃持ちの良さを示してくれるはずです。いよいよ我々のシルバーナイトもいよいよオリジナルのガーバーナイフに近づいていきました。



当初は250と呼ばれるモデルのみでしたが、その後サイズが200、250、300の3種類となります。200とは刃渡りが2インチのこと、250とは2.5インチのことです。またロックバック式の一枚刃のモデルをA, 二枚刃をBとし、三枚刃のモデルのCやハサミ付のモデルも製作されました。

シルバーナイトという名前もいろいろと考案した結果、決まりました。最後まで選択肢に残ったシルバーイーグルという名前を刻印がされたナイフが少量ですが存在します。(※G)

ハンドル部分に使われるオンレイにはウッド、パール、アバロン、ブラックパール、パッカーウッド、ABSプラスチックなどが使われ、なかには象牙、べっ甲、セイウチの骨などのモデルも少量存在します。また、ガーバーオリジナルのスクリムショウを使用したモデルも大人気となりました。後に全ての面を鏡面仕上げしたポリッシュモデル、お札を挟むクリップのついたマニークリップモデル、爪の手入れをするためのハサミ、とダイアモンドヤスリを持ったモデルも登場。このヤスリには、なんとノリタケのダイアモンドを使用し、ガーバーのカタログにも誇らしげに記載されていました。


ニュージーランドでのハンティングにて、ターを解体する大薮氏。
手に持っているのは名作、ハイス鋼のガーバーフォールディングハンター


和田榮は古くからハードボイルド作家の大薮春彦氏と親交が厚く、特に共通の趣味である狩猟、射撃、ナイフの話はつきませんでした。一緒にニュージーランドへ狩猟に出かけたとき、大薮氏は200メートルの距離を一発で命中させることの出来る銃の名手なのですが、和田はそれが出来ないため、いくつも山を越えて足で近づき、撃たなければいけなのが大変だったといっておりました。

大薮氏の小説の中にもマグナムハンターやマークUなど、たくさんのガーバーナイフが登場します。もちろんシルバーナイトも何度も登場しています。具体的に品番を挙げてその細かい様子まで説明されているのは大薮小説の特徴でもあります。これが後に世間を騒がす事件として実際に行われる事となります。
 

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※C 国内のナイフテストには根室でトド猟をされている当方のお客様にもご協力いただきました。脂のついた皮膚を切り裂いて解体する作業に使っていただくことにより、貴重なデータを得ることが出来ました。他にも当事、帝国ホテルのシェフをされていた方にもお願いしました。また、カッターナイフの発案者、当事のオルファカッター社長の岡田様にも握り具合や指の感触に関する感想をいただきました。特に刃を開いたときの音についてのお話は、大変興味深く、今でも我が社のナイフ作りの際の基準の一部になっています。後日この音の話とまるっきり同じ話を、ガーバーの社長、ピート氏が別の言い方で語ったのには驚きました。戻る

※D よく硬度が高いとネバリが無く、逆に硬度を下げると粘りが出ると言われます。しかしこれは全てに当てはまるものではありません。ギンガミ一号の場合は、硬度がHRC-57/59の範囲に熱処理されている状態がもっとも安定した、ベストの領域で、この状態が最もネバリもある状態なのです。この状態から硬度を下げたからといって特にネバリが良くなることはありません。

この領域は鋼種によって違います。ですから、同じ鋼材を無理やり高硬度に熱処理してもネバリがなくなってしまい、使い物にならなくなる場合があります。つまり鋼と熱処理の関係が最も重要で、単に数字だけを追いかけたHRC-65などという刃物にはあまり意味がありません。ちなみに、合金鋼の一種であるZDP-189などはHRC-67という超高硬度で安定し、錆にも強く、ネバリも出るのです。ZDPはそういう鋼なのです。ですから高硬度で製品化する必要があります。しかしこれはあくまでも最適な熱処理が施されていることが条件となります。戻る 


※E 現在シルバーナイトの熱処理は、ギンガミ一号のために釜を占領した真空焼き入れを採用しており、大阪堺市の八田工業株式会社にてコンピューター管理のもとで行われています。八田工業はアルティメットに使われている、ZDP-189 とATS-55の三層鋼の熱処理でもサポートしていただいております。その技術の高さから、現在最も信頼できる熱処理業者として、岐阜の関から大阪の堺まで鋼材を送ってでも熱処理を依頼しています。戻る


初期の頃のモデル200A アバロン


※F このほかにもガーバーが認めるまでには数多くのナイフがスクラップになりました。その一部はジー・サカイの旧工場敷地、現在の関ナイフ博物館の敷地の一部に埋められています。あまりの厳しい基準に勇平氏が憤慨し、見るのもいやだと言って穴を掘って埋めてしまったそうです。そこには今だに500本ほどのナイフがそのままの状態で埋められています。戻る


※G 何本かのシルバーイーグルは、シルバーナイト販売100万本記念モデルに刻印されたシリアルナンバーで抽選され、プレゼントされました。 戻る

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