なぜATS34でなくてATS55? その違いは?


ATS34は刃物鋼材の中でももっともポピュラーな鋼であるといえます。簡単に入手でき、加工も熱処理も簡単な部類に入ります。それでいて素晴らしい切れ味と安定した刃持ちと耐食性を持っています。ナイフを生産する側にとっても、コストさえ許せば安心できる材料であるといえます。

アルティメットに使用されている鋼材はZDP189とATS55です。ATS55? なぜATS34ではないのか。あえてATS55にしたメリットと、具体的な違いは何か。ココではこの問いについて記述します。

まず一言で言えば、何も違いはありません。というよりも意識できません。それほどこれらの鋼材は似た性質を持っています。ただし、これは製品化されたものを使用する方に関していえることで、生産する側、私たちにとってはいくつかの違いが生じます。

まず、ATS55の方が、錆びに関して強いということ。特に熱処理前の段階ではわかりやすい差が出ます。生産時には生産ラインの都合等により型抜きされた刃をしばらくの間、放置することがあります。木のトレイに何百と並べられた刃が、なん箱も積み上げられているとお考え下さい。その状態では生ですので、さびの発生が起こります。生というのは熱処理前という意味です。また時には錆びないように加工された液体の中に漬けられて保管されていうる場合もあります。後の工程で表面を削りますので、この時点の錆びは全く問題ないのですが、僅かですが、ATS34よりもATS55の方が錆びの進行が遅く、鋼材の分子構造の段階で、耐食性が高いことが予想されます。ZDP189には出来るだけ、いい鋼材をあわせたいという考えが、ATS34ではなく、ATS55を選びました。

そしてもう一つ。ATS55がATS34よりも優れているの点は、粘性が僅かですが高いということです。これは熱処理後、テスト段階で実感できます。また、ATS55が無垢材で使用されている製品で比べるとよくわかります。只今の時点で、ATS55は小型の折りたたみナイフに使用されていることが多い為、実感するまでには至らないかもしれません。また、実感できても、ごく僅かな感覚の問題ですので、よほど大きな入力があったときに、結果として判明する程度かもしれません。

またATS55は他社で多くの製品に使用、販売されており、市場での認知度も高く製品の安定性、しいては鋼材としてのATS55の信頼性も確率さてているという点があります。いくら優れた実験結果があるとはいえ、刃物鋼として新しい鋼が安定し、信頼に至るまでには長い時間を必要とします。新しく開発されたばかりのZDP189を使用するモデルにとっては願ってもないパートナーといえるでしょう。



写真提供 ワーフトフォトプレス


よくある質問で、なぜ硬い鋼を硬い鋼で挟むのかというのがあります。和鋼などでは鋼(ハガネ)を軟鉄で挟み込んで三層鋼とします。これは硬い切刃鋼を軟らかい軟鉄ではさむことでよく切れて、しかも折れない刃物を作るという意味で理にかなっております。一方、アルティメットでは硬いZDP鋼に硬いATSを使用して三層鋼としています。もっと軟らかい材用を使用するべきではないか。

答えはNOです。もしZDP鋼に軟らかい溶解鋼を使用して三層鋼とした場合、三層鋼にする段階で、また熱処理の段階で、高炭素である芯材(ZDP側、硬い鋼には多くの炭素があります)から炭素が抜け出し、軟らかい軟鉄側に入り込んでしまい本来の硬度が無くなってしまいます。しかしATS55には十分な炭素が元々ありますので、この状態にはならないのです。はじめてこの三層鋼を製品化したフジナンバーワンの初回生産分の時には、この炭素移動を防ぐ為に、隙間材をあえて使用し、厳密には五層鋼としました。現在は炭素移動をさせずに三層化と熱処理が出来る技術を確立しております。

また、軟鉄は勿論硬度が上がりませんので、(本来そのために使用します) あまりに硬度の差のあるもの同士をラミネート(張り合わせること)するのは構造力学上、いろんな問題点が発生します。それゆえに長期にわたる実験の結果、最適であるATS55を選びました。ですから私たちはこの組み合わせにはゆるぎない自身があります。

追記
加えてお話すれば、ZDP189は和鋼でもなければ、今までの溶解鋼、粉末鋼ではなく、粉末合金鋼であるということが今までの鋼とは大きな違いです。そう、合金なのです。それ故のここでは発表しきれない性質がたくさん有ります。これは研究した物、関わった者でないと理解できない、今までの常識では考えられない驚きの性能がたくさんあるのです。いまや素材の技術、合金鋼の技術は驚異的に進歩しています。

「今までの鋼材」をよく研究された方が、私達の鋼材や方法を、「今までの理論」に基づいて、いろんな意見を言われることがよくあります。一部には理にかなった物もありますが、ほとんどが、このZDPという合金鋼を理解されていないが故の理論となっています。これは仕方ありません。今までにはなかったものが出てきたのですから。

私たちも正直、最初は戸惑いました。しかしその驚くべき性能は事実当然のように実行され、実験結果として現れています。鋼材技術はここまで進んでいるのです。刃物業界だけが旧態依然とした理論に縛られている必要はありません。私たちの頭の中にある観念も進める必要がでてきたのです。ですから、私たちのプロジェクトを批判される方がいても腹が立ちません。新しい鋼が安定するまでには長い時間が必要であるのと同じように、刃物業界やユーザーの認識が変わっていくのにも、それなりの時間が必要なのだと考えています。というのは、実は私たちも、最初は同じように性能を疑う所から始めたのですから。


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